2012年4月17日火曜日

産学連携の挑戦者たち | 独立行政法人理化学研究所 理研の産業連携-連携推進部-


産学連携の挑戦者たち第4回目は、画期的な研究成果を挙げ、2008年3月末に2年5ヶ月の研究機関を終了した、「産業界との融合的連携研究プログラム」の応用質量分析研究チームにスポットをあてました。

第4回 応用質量分析研究チーム

応用質量分析研究チーム

チームリーダー   御石浩三さん(株式会社島津製作所)

副チームリーダー  鈴木 實さん(旧・理研フロンティア研究システム
/知的財産戦略センター)

応用質量分析研究チームが開発したキャピラリー電気泳動・イオントラップ・飛行時間型質量分析計
左:御石浩三さん、右:鈴木 實さん

1個の細胞に存在する微量な機能物質の構造を解析したい。そんな生命科学者の究極の夢を実現するため、理研と島津製作所の連携によって2005年10月、産業界との融合的連携研究プログラム 応用質量分析研究チームがスタートしました。そして、キャピラリー電気泳動とイオントラップ飛行時間型質量分析計を結合した、まったく新しい微量構造解析システムを構築。糖鎖の解析では従来のシステムの2万倍以上の高感度化を実現し、数百アトモルという微量な試料の解析が可能になりました。その量は、細胞約10個分に存在する糖鎖の量に相当します。細胞1個の解析も、もう遠い夢ではありません。

◆ 細胞の中の機能物質の構造が知りたい

――応用質量分析研究チームがスタートしたきっかけは?

御石:私が鈴木先生と初めてお会いしたのは、2000年3月です。質量分析に関して産学官が連携して何かできないだろうか、と鈴木先生から声が掛かり、質量分析装置の主要な国内メーカーなどが集まって議論をしました。

鈴木:世界に対抗できる、世界をしのぐ質量分析装置をオールジャパン体制でつくりたいと考えたのです。そのための勉強会をやろうと、皆さんに声を掛けました。


どのようにバンドソーRIPのフェンスを構築する

御石:雲をつかむような話だな、というのが正直な気持ちでしたね(笑)。企業としては、いつごろ、どういう成果が期待できて、事業にどう生かすことができるかが重要です。しかし、その道筋がまったく見えていませんでした。もう少し具体的な目標を立てて踏み込まないと話が進まないな、と感じていました。

鈴木:確かに、どういう規模で、どのようにやるのか、といった考えが欠落していました。現在、島津製作所の方々に集まっていただいての勉強会だけは継続させていますが、大きな規模の勉強会は数回で終わってしまったんですよね。

御石:2004年、私たち島津製作所は、イオントラップと飛行時間型質量分析計を組み合わせた、まったく新しい質量分析装置を世に送り出しました。ちょうどそのころ、理研に「産業界との融合的連携研究プログラム」という制度があることを知り、応募したのです。

「細胞の中のあらゆるものを見たい」と、鈴木先生は一貫して唱えていました。しかも鈴木先生は、どのようにしたら高感度が実現できるか、アイデアを持っていました。鈴木先生のアイデアと、私たちの新しい質量分析装置を組み合わせることで、その夢に近づけるのではないかと考えたのです。実は、2004年の応募は落選。2005年、二度目でようやく採用されました。

◆ 企業と研究者。互いの心を信じて

――研究者と企業の違いなどは感じましたか。

鈴木:誤解を恐れずに言えば、やりたいことができればいい、というのが、研究する側の一般的な率直な気持ちです。でも、このプログラムでは相手があります。企業の立場をきちんと最大限尊重することは、こんな私でも心掛けたつもりです。しかし、研究者はわがまま(笑)。何を言い出すか、何をやりだすか、御石さんはこのプロジェクトの最中でさえ正直、冷や冷やされていたと思います(笑)。

私は、イメージはすぐに湧くのですが、それを話したり、文章に書いたりするのが不得意なのです。イメージを伝え、共感を持ってもらうまでに時間がかかりました。それが難しかった点ですね。最後はもう、熱意で伝えました。


股関節の屋根を行う方法

御石:研究者は、一歩でも前に、と考えます。一方、製品をつくる企業には、万人が使えるか、安全かといった観点が必要で、そのためには足踏みをしてでも実験を重ねたいと考えます。企業にいる私と理研の研究者では、仕事の進め方がまったく違うんだな、と強く感じました。
私も大学時代は、先に先にと考え、自分で使う装置は自分が気をつけて使えばいいと思って研究をしていました。理研の研究者を見ていると、昔を思い出したりもしましたね。私たちが開発した装置を使うのは、ほとんどが研究者です。このプログラムに参加したことで、研究者の考え方、仕事の進め方をもう一度思い出すことができたのは、大きな成果です。

――企業と理研の人が同じチームで研究開発をする利点は?

御石:企業にいると、その企業文化の中で仕事をすることになります。それでは、大きな発展は望めません。たとえ1年であっても外の空気を吸う機会があることは、人材育成の点でも重要だと思います。

鈴木:企業の現実の仕事内容を知らない一部の研究者は、ある側面で極めて甘い考えを持っているかもしれません。一度企業に行って、彼らがどういう気持ち・考え方で仕事をしているか、真正面から見てくるのがよいかもしれないと思います。

◆ アイデアを形に。連携によって高速化

――2年5ヵ月の研究期間で、どのような技術的な成果が出ましたか。

鈴木:試料を濃縮しながらキャピラリー電気泳動に導くという新しい手法を開発し、島津製作所がつくったイオントラップ飛行時間型質量分析システムを改良したものと組み合わせることで、これまでの同様のシステムに比べて2万倍以上の高感度を達成しました。数百アトモル(1モルの1京分の1)オーダーのごく微量の試料でも計測できます。しかも特別な操作を必要とせず、普通に使えば誰でもきちんと解析できる質量分析システムをつくることができました。現在は糖鎖の解析に使っていますが、ほかの代謝物にも使えることから、この成果は生命科学においてとても大きな意味を持ちます。自分で自分をほめてあげたいですね(笑)。


どのように私は/ Cエバポレータードレンを一掃するのですか?

御石:感度という意味では、非常によい成果が出ました。しかし、製品化となると、まだ壁があります。装置が普及するためには、試料を入れたら何をしなくても結果が出てくるというように、中身をブラックボックス化する必要があります。さらなる自動化など、製品化のための課題は残っています。研究期間終了後は、私たち企業が課題を克服し、製品化まで持っていくことになります。

鈴木:研究開発の進むスピードがとても速かったですね。私たちは、アイデアは持っているのですが、その段階でくすぶっている。それが、島津さんと連携したことで、開始から1年半くらいで、もうアイデアが形になって見えていました。これは、私のもとで仕事をしてくれた方がなぜかとても驚くほど協力的で、帰宅時間などをまったく気にせず非常に熱心に仕事をしてくれたおかげでして、その点でもとてもラッキーで、感謝しています。なんだかんだ言っても、最終的には人かな(笑)。

――一度落選しながら、再チャレンジしたのはなぜでしょうか。

御石:私たち企業の技術者は、何をつくるのかという「物」に興味があります。しかし本当は、何に使うのかという「目的」が重要です。当時、島津製作所は生命科学を対象にした分野に事業領域を拡大しつつありましたが、社内には十分な知識や技術の蓄積はありませんでした。私たちがつくり、理研の研究者が使ってみるというように、物と目的を表裏一体として具現化できるこのプログラムが魅力的だったのです。

鈴木:当時知的財産戦略センターのセンター長だった丸山瑛一先生(現・特別顧問)が、もう一度応募してみなさい、とおっしゃってくれたことが励みになりました。丸山先生は、計測技術の重要性を非常によくご理解くださっていたのだと、今更ながら思います。

◆ 広く、遠くを見て

――産学連携に興味を持っている研究者や企業にメッセージをお願いします。


御石:研究者は、企業と一緒に仕事をする機会があれば、ぜひ積極的に利用してほしいと思います。研究者の世界と企業の世界は異質です。産学連携では、文化の衝突が必ず起きます。でも、それを経験することで視野が広がり、自分の将来の可能性も見えてくることでしょう。

鈴木:一般的に若い研究者は、現状に埋没しがちです。近視眼的ではなく、もっと遠くを眺めてほしいですね。そうしないと、いろいろな意味で行き詰ってしまう。御石さんも「視野を広げて」とおっしゃっていますが、角度だけでなく、距離も必要ですね。ぼんやりでいいので、なるべく遠くを見ることで、日常の考え方も変わってくるはずです。

――最後に、研究期間を終えての感想をお聞かせください。

御石:私は会社に入って30年。その間、出向など外に出る機会がありませんでした。今回、とてもいい経験をさせてもらいました。物の見方も多面的になってきました。理研の研究領域は懐が深い。理研のあの人とあの人の仕事をくっつけると、こんなこともできそうだ。最近は、そんなことも考えています。

鈴木:この数年、本当に多くの素晴らしい人たちに出会えたなと思います。それが、このプログラムの一番の財産かもしれません。でも、仕事はまだ夢の途中で、というより、まだスタートラインにさえ立たせてもらっていない気持ちです。もし何かの機会があったら、そのときにはぜひオールジャパンで質量分析装置をつくりたいものです。

(取材・構成:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

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